一つずつ心を込めて作る地域の光
第34回 こしぇる工房add 高橋けい子さん 小野公司さん
暮らしに遊び心を取り入れる 有限会社クワンが運営する「こしぇる工房add」は、滝沢市と盛岡市を拠点にさまざまなオリジナル商品を手掛けている。「生活(くらし)にアートを。」をテーマとし、ふきんや文具、雑...
岩手で活躍するさまざまな“人”に焦点を当て、紹介する「いわてプライド」。 この土地に誇りを持って生きる人たちの、熱い想いを伝えます。
「いわて短角牛」の歴史は明治時代から始まる。もともと農耕や荷物の運搬などで重宝されていた南部牛に、アメリカ産ショートホーン種を交配させて誕生した。東北地方で発生した唯一の日本短角種で、改良を行ったのは「短角牛発祥の地」として知られる岩手県岩泉町だ。今では久慈市山形町や二戸市とともに、全国でも有数の生産地となっている。
「いわて短角牛」は脂肪分が少ない赤身肉で、噛むほどに肉本来の旨味が口いっぱいに広がる。東京などでは「本場のフレンチやイタリアンに最も近い味を出せる上質な牛肉」として仕入れるシェフも少なくない。また、肉用牛頭数のシェアは全体のわずか0.5%ほどと、希少価値の高い食材でもある。
そんな「いわて短角牛」の魅力をさまざまな角度から発信しているのが、レザーアイテムの製造販売を行う「岩手革」の中村俊行代表だ。
「IWATE FOOD&CRAFT AWARD」グランプリや「Challenge Local Cool Japan inパリ」など受賞歴多数。「シームレス名刺入れ」は縫い目や金具を一切使わず、折りたたむだけで名刺を収納できる優れもの
中村さんが初めて短角牛と出会ったのは、趣味のツーリングで早坂高原を通りかかった時のこと。バイクで山道を上っていくと、道の真ん中をのんびりと歩く牛たちに遭遇した。
「短角牛の存在は知っていましたが、当時は目の前の牛がそれだとは気が付きませんでした。私は盛岡で『原価市場』という飲食店も経営していますが、店で出す料理の関係で短角牛のことを調べていくうちに、山の中で出会った牛が短角牛だとわかったんです。あれだけのんびり暮らしていたら、心身ともに健康な牛に育つだろうなと納得しました」
その後、自身の店でも「いわて短角牛」の取り扱いをスタート。しかし、あまり名前が知られていないことや黒毛和牛の人気に押されて結果が出ず、一時はメニューから取り下げたこともあった。
そんなある日、中村さんが惚れ込み店で扱っていた豚肉の生産中止が決定した。生産者が畜産を辞めることになり、後継者もいなかったためブランドが完全に途絶えてしまったのだ。
「その豚肉は自分の中で『これ以上ない』と思うほどのおいしさだったので、本当に残念でした。それと同時に、どんなに素晴らしいものでも失われる時は一瞬なのだということを強く感じたんです」
「いわて短角牛」も生産者が少なく、高齢化や後継者不足など課題は多い。このまま何もしなければ、遠からず幻の牛になってしまう可能性が高い。そして一度失われてしまったら、復活させるには途方もない時間と労力が必要になるのだ。
一つのブランドの消失を目の当たりにした中村さんは、飲食店で再び「いわて短角牛」をメニューに加えるとともに、短角牛の革に着目。さんさ踊りの太鼓に使われるほど丈夫で高品質であることを知り、それを使ったレザーアイテムを作ることで短角牛の新たな魅力を伝えていこうと岩手革を設立した。
「世界的に有名なレザーの一つに、イタリアンレザーがあります。イタリアは岩手県と同じ北緯40度のあたりに位置し、地中海からの潮風が吹く牧草地で牛を育てています。豊かな自然の中でストレスなく育った牛は健康的で、肉はもちろん革も最高品質のもの。イタリアに近い環境で育った『いわて短角牛』の革もまた、世界に誇れる上質なものなのです」
革製品は使えば使うほど風合いが変化していくため、上質で長く使い続けられるものが求められる。中村さんは財布や名刺入れ、バッグなどさまざまなアイテムを展開しながら、親子三代に渡って使い続けられるものを作りたいと語る
アイテムの開発や製造を行う佐々木菜美さん。一つ一つ丁寧に、じっくりと仕上げていく
県内の道の駅などで販売されている「短角牛レザーのだ塩入りお守り」。岩手の新しいお土産として人気を集め、売り切れてしまうことも多い
「いわて短角牛」に魅せられて、食と工芸で魅力を伝え続けている中村さん。切り口は違っても根底にあるのは「岩手のために、岩手の良いものを知ってほしい」という変わらぬ思いだ。地域の魅力に気づき、それを身に着けて大切に使い続ける。そうすることで、自分が暮らす街への愛着にもつながっていくのだろう。
「岩手には世界に誇れるものがたくさんありますし、信念を持って生産している人たちの背中はめちゃくちゃかっこいい。そのことを少しでもたくさんの人に知ってほしいです」と、中村さんは笑顔で語ってくれた。
●もりおか炭火居酒屋 原価市場
岩手県盛岡市大通2-7-19白崎二番館2F
TEL 019-601-9700
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フリーライター 山口由(ゆう)
2011年、東日本大震災をきっかけに横浜から盛岡へUターン。現在はフリーライターとして、お店や人材の紹介、学校案内、会社案内、町の広報誌など幅広く活動中。取材を通して出会うさまざまな人の思いや歴史を知り、「岩手ってすごいなぁ」と実感する日々を送っている。趣味は散歩と読書、長距離ドライブなど。ホームページはコチラ。
カメラマン 佐藤 到
1969年宮城県白石市生まれ。進学で来県すると、岩手の環境や住みやすさが気に入って定住。
写真店勤務を経て、フリーカメラマンとして独立。
フィルム時代から経験を積み現在は人物・風景・スポーツ・スクールスナップ・ウェディング・料理・商品などなど何でも撮影します。
佐藤到 インスタグラム
https://www.instagram.com/forzaitaruy_ly25/
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