一つずつ心を込めて作る地域の光
第34回 こしぇる工房add 高橋けい子さん 小野公司さん
暮らしに遊び心を取り入れる 有限会社クワンが運営する「こしぇる工房add」は、滝沢市と盛岡市を拠点にさまざまなオリジナル商品を手掛けている。「生活(くらし)にアートを。」をテーマとし、ふきんや文具、雑...
岩手で活躍するさまざまな“人”に焦点を当て、紹介する「いわてプライド」。 この土地に誇りを持って生きる人たちの、熱い想いを伝えます。
大阪生まれ、京都育ちの濱戸祥平さんは、現在、IGRいわて銀河鉄道株式会社の営業企画課長を務めている。主にIGR沿線の地域振興に向けたさまざまな活動を行っているほか、月に2度ほど県北地域を中心にツアーを実施し、添乗員として同行も行っている。関西弁で軽快なトークを展開しながら、その土地にしかない魅力を伝え続けている。
「高校生の時に修学旅行で北海道へ行き、初めて産業としての酪農を見たんです。その時に『動物を生業にするってすごいな』と思って。その頃は気象関係にも興味があって迷ったんですが、最終的に畜産を勉強したいと思い岩手大学に進学しました」
北海道の大学を選ばなかったのは、関西から海を越えて行くのは遠すぎると思ったからだそう。しかし当時は盛岡着の新幹線が、大宮発の「やまびこ」しかなかった時代。「岩手もむっちゃ遠いやんって思いました」と言って笑う。
自身が企画したバスツアーで案内人兼添乗員を務める濱戸さん
卒業後に就職した小岩井農場で羊の面白さを知り、この魅力を多くの人に伝えたいと模索を始めた。「今風に言うと、日本の羊のブランディングであり、生産農場としての小岩井農場のブランディングです」と語る濱戸さんは、やがて農場初となるシープ&ドックショーを開催。本場ニュージーランドの伝統的なファームショーを参考にし、何度も練習を重ねて大人から子どもまで日本人が楽しめるショーを作り上げた。
さらに1997年には牧羊犬の日本一を決める初の全国大会「シープドッグトライアルIN JAPAN」に出場し、なんと2年連続で優勝。小岩井農場のショーは日本中から注目を集め、他県にある観光農場からの視察も相次いだ。
「小岩井農場では17年間、羊に携わりました。さまざまなイベントも実施しましたし、多くの方に足を運んでいただきました。そうやって過ごすうちに、本当の小岩井農場の姿をお客様に知ってほしいと思うようになったんです」
小岩井農場の真の姿は観光農場ではなく総合生産農場だ。約3000haという広大な敷地を誇り、その中で酪農や林業、種鶏、環境緑化などさまざまな事業が行われている。まきば園の中だけではその規模や魅力を伝えることが難しいと考えた濱戸さんは、小岩井農場全体を活用した観光プログラム「小岩井農場物語」を企画。生産現場をバスでめぐるツアーでは、自らガイドとして100年以上におよぶ農場の歴史や現在の姿を観光客に伝えた。
やがて「小岩井農場物語」は人気を集め、2015年には「第10回エコツーリズム大賞」において最高位の大賞を受賞。農場独自の歴史や文化、自然はもちろん、年々高まるツアーの人気や、それに伴う催行数の増加などが評価されてのことだった。
小岩井農場の敷地内にある、岩手を代表する観光スポット「一本桜」
「小岩井農場の経験が、今の自分の糧になっています」
そう語る濱戸さんに転機が訪れたのは、今から6年ほど前のこと。岩手は地域ごとに独自の魅力を持っているものの、それを上手く伝えきれていないもどかしがある。そう感じた濱戸さんは、自身の活躍の場をIGRいわて銀河鉄道の旅行事業部門、銀河鉄道観光へと移し、さらに本社営業部で沿線地域の活性化に軸足を移した。
「岩手は一つの市町村エリアが広く、特産品や景勝地などがたくさんあります。そのため『あれも、これも』と宣伝したくなりますが、選択肢が多すぎると印象が薄れて逆効果になってしまいます。さらに、小さな地域ごとの背景にある歴史や文化、自然も異なります。そのため、地域の特性を活かした『ゾーンブランディング』を行い、さらに共通のテーマを持った地域をつなげる『ラインブランディング』を行う。その上でテーマ別に発信すれば、テーマそのものに興味を持つ人たちに向けて直接、響かせることができます。地域固有の特性を生かしたブランディングという考え方が大切なんです」
青山駅南口に併設する「びすとろ銀河」は、沿線の新鮮食材を使った料理で人気。写真はふわふわのオムハッシュと色鮮やかなサラダをパフェのように飾った「びすとろ銀河プレート」1380円(税込)
そんな濱戸さんが今、特に力を入れているのが2020年に日本遺産へ登録された「“奥南部”漆物語~安比川流域に受け継がれる伝統技術~」だ。日本遺産は特定の土地や建物ではなく、文化や伝統が織りなすストーリーが認定されるもの。2021年11月には、「漆の郷 北いわてを巡る旅」と題したバスツアーを開催。八幡平市から二戸市へ流れる安比川流域をたどりながら、かつて漆器のベースとなる木地(きじ)づくりの元となった安比高原付近のブナ林や、夏になると漆掻き職人が活躍するウルシの林、浄法寺漆器を作る塗師(ぬし)の技が見られる滴生舎(二戸市浄法寺町御山中前田23-6)などを巡った。実際に現地を訪れて解説を聞くことで、参加者が自然と地域や漆の歴史に思いを馳せることのできるツアーに仕上がった。
訪れたウルシ林で垣間見る漆掻き職人の技
「最近はブランディングという言葉だけが先行していて、手法が違っているものが多いように感じます。ブランドはあくまでも『特定の誰か』に向けたものであり、だからこそ心に響く強い魅力を発揮します。大切なのはその土地ならではのブランディングと、正しく情報を発信していくこと。そうすることで多くの人が訪れる場所にすることができるのです」
濱戸さんがIGRいわて銀河鉄道を選んだ理由の一つに、人口減少という社会的課題がある。IGRいわて銀河鉄道の沿線においても、近い将来、今の街の状態を維持するのが厳しくなる地域があるという。
「仮に何の魅力もない場所なら諦めるしかないのかもしれません。でも岩手には、ここにしかない歴史や文化、自然、郷土料理、芸能、そして伝統的に受け継がれている技術や工芸品などがあふれています。それを生かしきれず街が失われていくのは、あまりにもったいないと思うんです」
そんな濱戸さんは最後に、観光についてこう語ってくれた。
「観光の語源は、古代中国の書物「易経(えききょう)」に書かれた「観国之光 利用賓于王」(国の光を観るは、もって王の賓たるによろし)という言葉だと言われています。これは、海外を旅して見聞を広めるという意味のほかに、この国の光を見せるといった意味があります。観光とは、地域の光を見せること。それはやがて、その土地で暮らす人たちの誇りにもつながっていくのではないかと思っています」
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フリーライター 山口由(ゆう)
2011年、東日本大震災をきっかけに横浜から盛岡へUターン。現在はフリーライターとして、お店や人材の紹介、学校案内、会社案内、町の広報誌など幅広く活動中。取材を通して出会うさまざまな人の思いや歴史を知り、「岩手ってすごいなぁ」と実感する日々を送っている。趣味は散歩と読書、長距離ドライブなど。ホームページはコチラ。
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