いわてプライド

岩手で活躍するさまざまな“人”に焦点を当て、紹介する「いわてプライド」。 この土地に誇りを持って生きる人たちの、熱い想いを伝えます。

ツバキの花のように気高く強く生きる

第14回 株式会社バンザイ・ファクトリー 髙橋和良さん

ツバキの花のように気高く強く生きる

経営より技術を追求したい
創業者として悩んだ過去

 学生時代は情報技術について学び、社会人になってから大学院で博士号を取得した髙橋さん。バンザイ・ファクトリーを設立する以前は医療画像ITシステムの開発会社を経営しており、そのシステムは全国の大手病院で採用され海外にも研究開発センターを設立した。目覚ましい成長をとげる企業の代表を務めながら、髙橋さんは徐々に自分の中の迷いを感じるようになっていったという。

 「私が興味を持っているのは、あくまでも技術であり経営ではなかった。会社の成長とともに技術から離れ、銀行や証券会社の人たちとも接する時間が多くなり、経営管理のような仕事がメインになるのは厳しいと感じていました」

 自分はこれから先、どうすればいいのか。そう思い悩んでいた矢先、あるニュースを知った。それは、幼い頃から慣れ親しんできた南部鉄器や漆器(木工)などの伝統工芸品が、衰退の一途をたどっているというものだった。

職人の世界にヒントを得た
IT木工の研究開発

 今でこそ岩手県の工芸品は国内外を問わず高い評価を受け、根強いファンも多い。しかし当時はプラスチック製品などの安価な商品に押されて厳しい時代を迎えていた。そのニュースをきっかけに漆器や木工を手掛ける現場を見学した髙橋さんは、驚きの事実を知ることになった。

 「自分がこれまで携わってきたハードウェアやソフトウェアというものは、全ての産業で利用されているものと思っていました。それなのに木地制作や漆を塗る工程には、コンピューターが活用されていない。職人にとってコンピューターは必要ないのだろうか…と衝撃を受けました」

 しかし同時に、もう一つの考えも湧き上がった。
こうした世界にコンピューターを導入してものづくりができたら、何か面白いものができるのではないか。そしてそれが実現できれば、10年、20年といった修行が必要な職人の道だけでなく、若い人も参入したくなる業態になるのではないか。

 2005年、髙橋さんは15年間経営した医療ITシステム開発の会社をM&Aで売却し、その翌月には盛岡市でIT木工の研究開発をする会社を創立登記。これがバンザイ・ファクトリーの前身となった。


武蔵野美術大学と共同開発したiPhoneのウッドケース。注文が殺到し、生産能力を超えて半年ほど受注をストップしたこともある

武蔵野美術大学と共同開発したiPhoneのウッドケース。注文が殺到し、生産能力を超えて半年ほど受注をストップしたこともある

世界に一つだけのカップで
人と人との絆をつなぐ

 現在、バンザイ・ファクトリーでは、岩手の県産木材を使った“ほかにはない”ものづくりを行っている。そのうちの一つに樹齢80~100年の北限山桜を使用した木製カップがあるが、そこには人の手の握り象が彫り上げられている。使う人の握り象をとって仕上げる世界に一つだけの特別なカップ。その名も「我杯(わがはい)」だ。

 髙橋さんがこの商品を思いついた当時、看護の世界では「人は自分の手にぴったりとしたものを握り続けると頭脳の後退を遅らせることができ、ひいては痴呆症が緩和される」という論文が海外で発表されていた。まだ医療情報システム開発の会社を経営していた頃、自身が夜遅くに帰宅した時にほっとくつろげる何かがほしいと考え「自分の手の握り象をしたものに触れたらどう感じるんだろう」と思ったのが我杯誕生のきっかけだった。


岩手県産材に三次元技術を施した「我杯」。岩手の漆を塗ったものや、オプションで南部鉄器の馬蹄鉄をつけることもできる

岩手県産材に三次元技術を施した「我杯」。岩手の漆を塗ったものや、オプションで南部鉄器の馬蹄鉄をつけることもできる

コロナ禍だからこそ
心をつなぐ特別なものを

 「私は基本的に、何かに特化した技術をやりたいタイプの人間で、世の中のためになるものを作りたいと考えていた訳ではなかったのです。我杯も、ただ寂しい男のために作ろうというのがスタートでした」

 今では我杯だけでなく、乳幼児や子どもの握り象を利用した木製のマギーカップも販売している。これらの商品は出産記念や贈り物として注文されるケースが大半で、特にコロナ禍になってからは爆発的に売り上げが伸びた。その理由について、髙橋さんはこう語る。

 「今まではお世話になった人の送別会や、生まれたばかりの孫の顔を両親に見せる事が普通にできていました。しかしコロナ禍になり、人と一緒にすごすこと自体がとても難しくなった。そうなった時、多くの人は何か特別なもので気持ちを伝えようと考えたのではないでしょうか。我杯は異動や退職を迎えた先輩や上司、離れた父への感謝をこめて、マギーカップは直接会うことのできない祖父母に向けて、少しでも子どもの存在を近くに感じてほしいと贈る人が多くなりました。私はコロナ渦になり「絆」を強く感じる物を探した時期だったのではないかと思っています」


ヤブツバキの葉と九戸村産の甘茶をブレンドし、すっきりとした甘さが楽しめる椿茶

ヤブツバキの葉と九戸村産の甘茶をブレンドし、すっきりとした甘さが楽しめる椿茶

震災から10年。被災した
未開用地にツバキを植える

 また同社では2015年から有志とともにレッドカーペット・プロジェクトという取り組みを行っている。これは東日本大震災で被災した土地に陸前高田市と大船渡市の市花であるヤブツバキを植樹するほか、ツバキを使用した商品開発および地域の雇用創出などを目的としたものだ。2020年6月には一般社団法人レッドカーペット・プロジェクトも創設した。


メカブの中芯と元茎をパウダーにしたアルガソルトは、天然の食物繊維と呼ばれるアルギン酸を多く含んだスーパーヘルスフード。椿茶の粉末を混ぜて、よりまろやかな風味に仕上げたブレンドバーションもある

メカブの中芯と元茎をパウダーにしたアルガソルトは、天然の食物繊維と呼ばれるアルギン酸を多く含んだスーパーヘルスフード。椿茶の粉末を混ぜて、よりまろやかな風味に仕上げたブレンドバーションもある

「椿マインド」を合言葉に
この土地でたくましく生きる

 ツバキは地中深くに根を張るため、成長に時間はかかるが力強く育つ。その証拠に、東日本大震災の津波をかぶっても多くが生き残り花を咲かせた。レッドカーペット・プロジェクトは、津波に負けず生き残ったツバキのたくましさや気高さを持って生きようという「椿マインド」を合言葉に、長期的な活動を目指している。

 髙橋さんは、「今は震災から10年が経ったという現実を、感情に支配されず冷静に認識するチャンスだと思います。復興は震災前の街に戻すという意味になりますが、この街に求められていることは新興、新たにことを興すことだと考えて、これからもさまざまな取り組みを行っていきます」と語った。



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この記事を書いたひと

フリーライター 山口由(ゆう)

2011年、東日本大震災をきっかけに横浜から盛岡へUターン。現在はフリーライターとして、お店や人材の紹介、学校案内、会社案内、町の広報誌など幅広く活動中。取材を通して出会うさまざまな人の思いや歴史を知り、「岩手ってすごいなぁ」と実感する日々を送っている。趣味は散歩と読書、長距離ドライブなど。ホームページはコチラ。

https://tokkari-shouten.themedia.jp/

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