いわてプライド

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アワビの陸上養殖で持続可能な未来をひらく

第13回 元正榮 北日本水産株式会社 古川翔太さん

アワビの陸上養殖で持続可能な未来をひらく

将来は三代目として
祖父から続く会社を受け継ぐ

 1986(昭和61)年にアワビの陸上養殖を主軸に創業した元正榮(げんしょうえい)北日本水産株式会社。祖父が創業し、父・季宏さんが代表取締役を務めるこの会社で、古川さんは将来的に三代目を受け継ぐ立場にある。学生の頃から水産関係の仕事に興味があったという彼は海洋学部のある大学に進学し、卒業後に同社へ入社。現在は営業部長として、BtoBの営業や昨年12月に立ち上げたECサイト「元正榮 三陸翡翠あわび」の管理・運営などを担当している。

卵から食用サイズまで
国内唯一の技

 北日本水産が手がけるアワビの陸上養殖は、親となるアワビを育てて産卵させるところからスタートする。通常は小さなアワビを仕入れて養殖するスタイルが一般的で、卵から食用サイズまで手がけているのは国内で唯一、同社だけだという。一貫して管理・生産するため、高品質なアワビを安定的に提供できるのが強みだ。

 アワビを育成するために使われるのは、何層もの地層によって自然にろ過された海水を地下から汲み上げ、さらにそれをろ過して磨き上げたもの。これを24時間365日、かけ流しで使用することによって、常に清潔な水環境を維持している。

 また同社のアワビはワカメや昆布を主成分とする餌をたっぷりと与えられ、外敵のいない環境でリラックスして成長する。そんな“ゆとり教育”で育てられたアワビは肉厚で柔らかく、刺し身でも美味しく食べられるのが特徴だ。


小さな粒のように見えるアワビの幼生

小さな粒のように見えるアワビの幼生

東日本大震災を経験して抱く
家族や地域への思い

 そんなアワビがのんびりと育つ巨大な水槽の向こうには、穏やかな海が広がっている。今でこそ美しく豊かな風景が見られるが、10年前の3月11日には全てのものが津波に飲まれ、甚大な被害を受けた。

 当時、中学3年生だった古川さんは、卒業式の予行練習を終えて帰宅した時に地震が発生し、津波が押し寄せてきた。しかし幸いなことに、家族や友人、知人にいたるまで震災の犠牲になった人はいなかったという。そのことを古川さんは、「とても幸運なことでしたし、その後の学生生活をごく普通に過ごせたことにも感謝しています。自分は家族や地域を含めて本当に良い環境で育ててもらったのだと、改めて実感しました」と語った。


1年間でおよそ40万個の食用アワビを生産している

1年間でおよそ40万個の食用アワビを生産している

ECサイトの立ち上げによって
個人消費者がリピーターに

 震災後は取引先からの支援や、国の助成制度などを用いて着実に復興を進めてきた。しかし、昨年から流行している新型コロナウイルス感染症の影響で、飲食店や宿泊施設との取り引きが激減。再び窮地に追い込まれた。

 「ECサイトの立ち上げは、苦し紛れの策でした」と語る古川さん。最初は取引先の従業員向けにチラシを作り、個人販売を試みた。すると予想以上に注文が入り、「これはECサイトを立ち上げたら反響があるのでは?」と思い至ったという。初心者でもわかりやすいアワビのさばき方動画やレシピを作るなどして工夫をこらし、現在では1,000人規模のファンを抱えるサイトに成長。全国各地から注文が舞い込んでいる。


あっという間に水槽に逃げてしまうほど生きの良いアワビ

あっという間に水槽に逃げてしまうほど生きの良いアワビ

生産量を増やし
岩手を代表する水産物へ

 震災や感染症などさまざまな困難を前向きな姿勢で乗り越えてきた北日本水産。今後はアワビの試食ツアーを開催したいと、古川さんは考えている。まだ計画段階ではあるものの、アワビについての解説や工場見学を行った後で、一人一個のアワビを網焼きか酒蒸しで食べられるという贅沢な内容を検討。大船渡市内で同社のアワビを提供している飲食店を紹介することで、市内の観光につなげることも狙いとしている。

「イチゴ狩りみたいに、気軽にアワビを食べに来てもらえたら嬉しいです」

今後はさらにアワビの生産量を増やしPRしていくことで、「岩手といえばアワビ」と言われる未来を目指している。


三陸の宝を守り発展させる
持続可能な陸上養殖

 「三陸の海は昔から豊富な水産資源に恵まれた場所です。でも最近は、震災や気候変動の影響から海の様子がだいぶ変わってきました。特に磯焼けの被害は深刻で、アワビを始めさまざまな魚介類が影響を受けています。」古川さんはその解決策として、同社が手がける陸上養殖は大きなヒントになると考えている。

 卵から食用サイズまで人の手で管理するからこそ、季節や天候に左右されることなく安定して供給できる陸上養殖。この方法は持続可能な水産物を生み出すものとして、これからの時代にますます注目を集めていくだろう。大船渡から全国、世界へと発信することで、水産業の明るい未来をひらくことができるのかもしれない。



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この記事を書いたひと

フリーライター 山口由(ゆう)

2011年、東日本大震災をきっかけに横浜から盛岡へUターン。現在はフリーライターとして、お店や人材の紹介、学校案内、会社案内、町の広報誌など幅広く活動中。取材を通して出会うさまざまな人の思いや歴史を知り、「岩手ってすごいなぁ」と実感する日々を送っている。趣味は散歩と読書、長距離ドライブなど。ホームページはコチラ。

https://tokkari-shouten.themedia.jp/

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